
2015
318 x 410 mm
紙にアクリル
「ロートス・パラダイス」
この絵を見たとき、誰もが一度は胸の奥に感じたことのある、懐かしくて切ない気持ちがふっとよみがえるのではないでしょうか。
青い扉の白い家。
花と緑に包まれた小さな楽園。
そこにいるのは、ただのんびりと歩く二羽のニワトリと、ぽつんと灯る優しい光だけ。
まるで夢の続きのような場所。
でも、どこかで「ここを知っている」と心が囁く。
作者は言います。
「私たちはきっと、生まれる前にロトスを食べたのだ」と。
ギリシャ神話に登場するロトス——
一度口にすれば、甘く心地よい忘却が訪れ、
故郷の記憶も、帰るべき場所も、すべてが遠くなり、
もう二度と戻れなくなってしまうという、あの伝説の果実。
もしかしたら、私たちみんながそうだったのかもしれません。
生まれる前の魂のとき、
光に満ちた、完全で、苦しみのない世界にいた。
そこで誰かに差し出された一粒のロトスを、
何の迷いもなく、嬉しそうに口にした。
その瞬間、
「帰る場所」を忘れ、
「本来の自分」を忘れ、
泣きながらこの世界に生まれてきた。
それでも、
時折、こんな風景に出会うと胸が締めつけられるのは、
忘れたはずの記憶が、かすかに疼くから。
青い海、満開の花、のんびり歩くニワトリ。
何も起こらない、ただ穏やかな一日。
それなのに、なぜか涙が出そうになる。
それは、魂が覚えているから。
「ここが、本当の家だったかもしれない」と。
この絵は、ただ可愛らしいだけではない。
私たちが失ったパラダイスを、
そっと指し示してくれる鏡のような作品です。
忙しい日々の中で、
疲れて、傷ついて、それでも前に進もうとする私たちに、
この家は静かに語りかけてくる。
「大丈夫。
あなたは忘れてしまったけれど、
ここに帰る場所はちゃんと残っているよ。
いつか、またロトスを食べる前の、
あのまぶしい光の中へ戻れる日が来るから。
それまでは、この美しい夢の中で、
精一杯生きてごらん。」
だから私たちは、
この絵を見ると無性に優しくなれる。
自分にも、誰かにも、
世界のすべてに、赦しと愛を感じられる。
失ったものを思い出しながら、
それでも今を生きる私たちを、
この小さな家と二羽のニワトリが、
ずっと温かく見守ってくれている。
これが、「ロートス・パラダイス」。
忘却と記憶の、夢と現実の、
永遠に続く、優しい境界線です。
帰る場所は、ちゃんと残っている
「ロートス・パラダイス」
――あなたが忘れてしまった、本当の故郷の記憶
この絵を見た瞬間、
理由もなく胸が熱くなる人が、きっと多いはずです。
白い家に大きな青い扉。
花が咲き乱れ、海がすぐそこにあって、
二羽のニワトリがのんびり歩いているだけ。
何も特別なことは起こっていない。
それなのに、なぜか涙がこぼれそうになる。
それは、魂が覚えているからです。
ギリシャ神話に登場する「ロトファゴイ(蓮を食べる人々)」の物語を、
少しだけ思い出してください。
オデュッセウスの部下たちが、漂着した島で出会った人々は、
甘く美しいロトスの実ばかりを食べていました。
一口食べただけで、彼らはたちまち夢見心地になり、
故郷イタケへの帰路も、家族の顔も、戦いの記憶も、
すべてをすっかり忘れてしまった。
「もう帰りたくない。ここにいたい」
そう言って、船に戻ることを拒んだのです。
オデュッセウスは泣く泣く彼らを縄で縛って船に引き戻しましたが、
一度ロトスを味わった者は、二度と元の自分には戻れない、
そんな恐ろしくも優しい果実でした。
作者は言います。
「私たちも、もしかしたら生まれる前にロトスを食べたのかもしれない」と。
光と愛だけに満ちた、完全な世界。
そこにいた魂の私たちは、
誰かに差し出された一粒のロトスを、
嬉しそうに、疑うことなく口にしました。
その瞬間、
帰るべき場所を忘れ、
自分がどこから来たのかを忘れ、
泣きながらこの世界に生まれてきた。
だから私たちは、
時々、理由もなく「帰りたい」と強く思う。
忙しい日常の片隅で、
ふと立ち止まって、遠くを見つめてしまう。
この絵は、まさにその「帰りたい場所」の記憶です。
青い海、満開の花、のんびり歩くニワトリ。
何も起きない、ただ穏やかな一日。
でも、それがどれほど尊いか、
ロトスを食べてしまった私たちは、
もう痛いほど知っている。
だからこそ、この家は優しく語りかけてくれます。
「大丈夫。
あなたは忘れてしまったけれど、
ここはちゃんと残っているよ。
いつか、またあのまぶしい光の中へ、
ロトスを食べる前のあなたに戻れる日が来るから。
それまでは、この夢のような世界で、
泣いたり笑ったり、傷ついたり癒されたり、
精一杯生きてごらん。」
この絵を見ると、
自分を責める気持ちが溶けていく。
誰かを憎む心も、静かにほどけていく。
失ったものを思い出しながら、
それでも今を生きる私たちを、
小さな白い家と二羽のニワトリが、
ずっと温かく見守ってくれている。
これが「ロートス・パラダイス」。
忘れてしまったけれど、
確かにあった本当の故郷。
夢と現実の、
永遠に続く、優しい境界線です。
