
2025
273 x 190 mm
Acrylic on canvas
ペンギンたちの行方
ある暖かい午後、星の達人と呼ばれているジャック・スターライトは、いつもの丘のベンチに腰かけて、湯気の立つ紅茶をゆっくりと味わっていた。海は青く輝き、空にはふわふわとした雲が浮かび、ピンクの花が風に揺れている。ハムスターたちが石垣の上からひょっこり顔を出し、犬がのんびりと隣で日向ぼっこをしている、本当に穏やかな時間だった。
すると、草むらをかき分けて、トコトコトコ……と小さな足音が近づいてきた。
黒と白の可愛らしいペンギンたちが、整然と一列になってジャックの前を通り過ぎていく。
先頭のペンギンがちょっと首を伸ばしてジャックを見上げた。
「あの人が星の達人かな……?」
後ろのペンギンが小声で答える。
「ううん、違うと思う。もっとキラキラしてるはずだよ」
どうやらペンギンたちは、遠くから噂を聞いて、「本物の星の達人」に会いたくて旅をしているらしい。一生懸命な横顔が、なんともいじらしくて愛おしい。
ジャックはカップを置いて、思わず立ち上がりかけた。
「僕だよ。ジャック・スターライトだよ。君たちが探してるのは僕だよ」
でも、その言葉は喉の奥で優しく溶けてしまった。
だって、ペンギンたちがあまりにも純粋で、
小さな体で仲間を信じて歩いていく姿が、
宝物みたいに尊くて、
邪魔したくなかったから。
ジャックは再びベンチに座り直し、遠ざかっていく小さな背中を見送った。
トコトコトコ……
ペンギンたちは丘を下り、道の向こうへと消えていった。
ジャックは空を見上げて、そっと呟いた。
「大丈夫だよ。
君たちがあんなに真っ直ぐ信じているなら、
きっと、どこかで会える。
星の達人は、君たちが思うよりもずっと近くにいるかもしれないよ」
誰かに会いたい。
誰かを信じたい。
誰かのために歩きたい。
そんな、子どもの頃に持っていた純粋な気持ちを、
ペンギンたちはふっとよみがえらせてくれる。
だから私たちも、
ちょっと疲れて立ち止まっていた心に、
もう一度小さな一歩を踏み出す勇気が湧いてくる。
ペンギンたちの行方はまだわからない。
でも、きっと大丈夫。
信じて歩く小さな足跡は、
必ず大切な誰かに届くから。
「すぐそばにいる星の達人」
ペンギンたちは「本物の星の達人」に会いたくて、遠い道のりを歩いてきました。
でも、目の前にいたジャックがまさにその人だと知らずに、通り過ぎてしまった。
この場面が教えてくれるのは、
私たちがずっと探し続けてきた「答え」や「救い」や「大切な人」は、
実はもうすぐそばにいることが多い、ということです。
・仕事で疲れ果てたとき「本当の成功」はどこか遠くにあると思ってしまう
・恋愛で傷ついたとき「運命の人」はもっと先にもっと違う場所にいる気がする
・生きる意味を見失ったとき「答え」は壮大な旅の果てにしかないと思い込む
でも、実はもう隣にいたり、
今この瞬間にあったり、
自分の中にずっとあったりする。
ジャックが「僕だよ」と声をかけなかったのも、
とても深い優しさでした。
ペンギンたちに「旅を終わらせたくなかった」のです。
「会えた!」という喜びよりも、
「会いに行く」という希望を抱き続けることの方が、
ときにはその人にとって宝物になるから。
人生も同じです。
「もう答えにたどり着いた」と思ってしまうと、
そこから先の景色が見えなくなってしまう。
でも「まだ途中だ」と思い続けている限り、
毎日が少しずつ輝いて見える。
だから私たちは、
ペンギンたちのようにトコトコ歩き続ける。
「違うかな?」と思いながらも、
それでも信じて次の丘を越えていく。
そして、いつかふと振り返ったとき、
「あ、あのときの人が……」と気づく。
答えは最初からそばにいて、
自分を見守ってくれていたことに。
あるいは、
もっと素晴らしいことに気づくかもしれません。
自分が歩き続けたことで、
誰かの「星の達人」になっていたことに。
ペンギンたちはまだ旅の途中。
私たちもまだ旅の途中。
でも大丈夫。
信じて歩いている限り、
道に迷ったことなんて、
実は一度もないのです。
